会社・個人の柔らかな債務の整理術
弁護士木村晋介
1、 債務整理成功の3つのポイント
人間に失敗はつきものです。そして、失敗に債務はつきものです。事業の失敗、生活設計の失敗。全ての個人・事業者にとって、それぞれの自己責任による予測の上に立って行動を選択することが原則となっている市場経済社会では、その予測が狂ったときには失敗に結びつくことになります。失敗を恐れていては市場経済の中で生き残れない、という考えもなり立ちます。そして失敗には、多くの場合、大きな負債がともなうものです。債務整理とは、失敗からどうやって傷を少なく立ち直るか、という一種の危機管理術といえます。そしてその成功のポイントは、次の3点につきるといえるでしょう。
① 危機を危機として直視し、問題を一時延ばしにせず、一日も早く専門の弁護士に相談すること。
② 一部の債権者に経営を任せて乗り切ろうとしたり、資格のない整理屋に解決を任せないこと。
③ 専門の弁護士に相談する前に、素人判断で資産隠しをしたり、財務諸表・帳簿類を隠したり処分したり、資産の名義を変えたり処分したりしないこと(よくあるのは売掛金の債権譲渡)。
2、 以上の3ポイントで失敗があるとき
しかし、人間に失敗がつきものである以上、既に上の①、②、③の3つのポイントで失敗を犯してしまったという経営者や、個人の方もいるでしょう。その場合であっても、専門家の手を借りてこれを修復し、債務整理を成功に導くことは、十分可能です。
ただ、①をやりそこなえば、整理の手続きの選択肢が、少し限られてきますし、②のポイントでやり損なえば、その債権者や整理屋たちを排除するのに手間がかかる上、他の債権者の信頼を取り返すのに手間がかかります。③のポイントでやりそこなうと、その修復に手間がかかり、やはり債権者の信頼獲得に手間がかるということは忘れないでいただきたい。要は、やりそこなったことに気が付いた段階ですぐに信頼できる、専門の弁護士に相談することです。
3、個人の生活債務の整理
これは一番簡単な整理の部類に入ります。債権者に弁護士が整理に入ったことを通知し、以後本人への直接の請求をストップするとともに、債権の届出をしてもらいます。弁護士事務所からの連絡が入れば、ヤミ金融の場合以外は、これで本人への請求は止まります。ヤミ金融(これは、無登録の金融で、犯罪行為になります)の場合も、本人に請求行為をすることは、自分が逮捕されることにもつながりますので、ほとんどの場合本人への請求は止まります。後は、届出債権が正確なものかどうかを次のように確認します。
① ヤミ金融からの請求に関しては、債権を放棄させます。ほとんどの場合、ヤミ金融はこれに応じます。悪質で、債権者が特定できるときには、支払額全額を返還させ、刑事告訴します。債権者が特定できないときも、容疑者不特定のまま告訴し、送金口座を凍結するなどの手続きを取り、請求をとめることができます。
② いわゆるサラ金からの請求については、利息制限法による再計算をします。これにより、債権額が減少することが多いでしょう。場合によっては、払いすぎた分を取り戻せることもあります。
③ その他の債権者については、おおむね届出どおりということが多いでしょう。
以上の方法で、債務現状をつかんだうえで、債権額の大小、本人の資産収入、周囲の協力が得られるかなどを考えて整理手段を考えてゆきます。どの手段をとるかは、ご本人との相談によりますが、いずれも、今までの職業を維持しながら進めていくのが基本です。
a、任意整理は、ある基準により、一括または分割で残債を各債権者に公平に支払っていく方法です。一番ソフトな方法ですが、本人の地道な努力が求められます。
b、破産・免責は、最近一番多い方法で、裁判所に申し立て、債権を棒引きしてもらう方法です。破産の原因(浪費、ギャンブル)によっては、免責の前に一部の支払いを求められることもあります。破産をしても、実生活にそれほど大きな障害は生じません。
c、民事再生は、本人に定期的な収入があって、ローンつきの自宅があり、これを残して分割払いで債務を整理したいというときなどに使います。一般の債権者にはある程度の減額を求めることになりますので、過半数の同意が必要になります。
d、特別調停は、任意整理を裁判所の調停を利用してやるようなもの。債権の減額を申し立てるのが普通ですが、債権者それぞれの賛成が必要です。賛成の可能性は、かなり高いようです。
4、事業者の債務整理
個人法人を問わず、事業者の債務整理には、さまざまな関係者がそれぞれの利害関係を持って関与してくるので、複雑な問題が生じやすくなります。これを出来るだけシンプルに、迅速に行うのが、専門家の技術と経験の生かしどころです。
① まず、事業者の債務整理は、慎重に、計画的に行わなくてはなりません。
② 債権者を公平に扱う。優先債権者には、その優先性を認めることが、公平ということになります。
③ 優先債権者の中には、抵当権などの担保権者のほか、税金・社会保険等の官署、未払い賃金のある従業員、代金未納のまま商品を入れた買い掛け先(買い掛け商品に対してだけの優先権。先取特権という)などが考えられます。
④ 請負事業などの場合には、下請事業者が、途中まで工事をしている仕掛工事などがあります。施主、元受、下請けの関係をうまく調整するには、なかなかの知識と経験が必要です。
⑤ 債権者同士が勝手に商品や備品在庫を引き上げる、資産を差し押さえるということになると、民事再生手続き、破産手続きなど法的手続きをとるしかありませんが、これは費用の無駄も多く、時間のロスも大きくなり、債権者にとっても、債務者にとっても大きなマイナスとなります。
a、そこで、債権者の満足度が全体として大きく、債務者にとっても一番柔らかで、次の事業再開にも、次の就職にも結びつきやすいのは、「任意整理」ということになります。
実際にも、任意整理による債務整理は、全体の90%以上を占めています。
任意整理を成功させるためのポイントは、第一に、債権者集会までに十分な準備を迅速に行うこと、第二に一部債権者の自己本位な債権回収を許さないための保全処置をしっかりとっておくこと、第三に債権者集会で、債権者の信頼獲得のための質疑時間を十分取り、どのような質問にも誠意を持って的確に回答できるようにしておくこと、その場で回答することが出来ない問題については、別の機会に説明責任が果たせるようにしておくこと、第四に、その後の整理手続きについて、十分な連絡をする体制をとること。以上に尽きるでしょう。
b、債権者の一部に強固な反対意見があるときは、再建を目指す場合には、「民事再生手続き」をとることが適当でしょう。現在は債務超過にあるものの、事業基盤がしっかりしていて、将来の収益性が見込まれるのであれば、きちんとした再生計画書を提出し、債権者の過半数(総債権者の債権額による議決権の過半数と出席債権者の過半数)の同意で、再建計画がスタートできます。現経営陣の変更は必要なく、担保権者や租税債権を除く個別の債権者の勝手な動きは制約されます。
c,債権者が現経営陣に強い不信感を持っていたり、経営陣内に抗争があったりする場合には、現経営陣に変わって、管財人が再建までの権限を持つ、「会社更生法」の利用が適当でしょう。債権額にもとづいて決められる議決権の過半数で更生計画案が同意されても、計画のスタートには裁判所の認可決定が必要です。この手続きでは、担保権者や未納の租税債権の権利行使も制約を受けます。担保権者や租税債権の動きをとめないと再建が出来ない場合には、更正法の利用は適切ということがいえるでしょう。
d,最後の手段として、「破産」があります。再建の見通しがたたない場合はやむをえないでしょう。この場合には、ゼロからのやり直しとなります。ですから、できる限り他の方法による、柔らかい債務整理の方法を検討した上で決めるのが良いでしょう。