手形の支払いを拒否したい
Q.
家族と数人の社員で運営している小さな会社の代表取締役ですが、長男の専務が勝手に会社の約束手形を振り出してしまいました。
受取人から裏書譲渡を受けた手形の所有者から支払うようにと、手形の提示を受けているのですが、会社として決済をしなければいけないのでしょうか?本来、専務に手形の振り出し権はなく、今まで手形を振り出す場合はすべて代表者の私が行っていました。
A.
このケースでは”専務取締役”という役職に、手形とか小切手を振り出す権限があると、世間一般が見ているかどうかが問題です。
代表取締役社長でなくても、取締役会長、専務取締役、常務取締役というように代表権を持っているように思われる名称を持つ取締役を”表見代表取締役”といいますが、この表見代表取締役の行為について、会社がどういう責任を負うかということは商法で定められています。
・専務の行為に会社は責任を負わなければならない
商法は今年(2006年)5月に大きく改定されたのですが、改定前の262条によると、「社長、副社長、専務取締役、常務取締役、その他会社を代表する権限を持っていると認められるような名前(肩書き)をつけた場合は、その会社の代表権をもっているようにみなされ、会社は善意の第三者に対して責任を負わなければならない」となっています。
新しく改定された商法では、この内容については354条に規定され、条文は「社長、副社長、その他株式会社を代表する権限を保有する者と認められる名称を付した場合は、代表する権限を持っていると認められる」という風に一部変わっています。
条文から”専務取締役”の役職名がなくなっているので、会社は責任を負わなくてもいいのかな、と思われるかもしれませんが、これは単に”その他”の中に専務取締役が入っているということで、その内容と解釈については改定前とほぼ同じ。会社は専務取締役のやったことにも責任を負わなければならない、というのが有力な考え方です。
・手形はそこに記載されている内容がすべてと解釈される
長男が振り出した手形には、社長の名前が書かれていたのか、専務取締役の名前が書かれていたのか判りませんが、いずれにしても善意の第三者に対して責任を負わなければなりません。つまり手形のお金は支払わなければならないのです。
家族的な会社の場合ですと、実際取締役でもないのに、“専務”とか“常務”とか呼び合っているケースがよくありますね。そういう風潮を社長が黙認していれば、取締役として登記されていなくても、相手方はその呼び名を信用して取引してしまいます。そんな場合も会社は責任を負って、手形を支払わなければなりません。
長男が支払い先の相手と共謀して、専務に代表権がないことを知った上で手形を振り出させた。そういう場合であっても、手形がすでに第三者に裏書譲渡されているのであれば、手形というものの性質上、そこに明記されていること以上の意味を持つことはありません。「実は長男が勝手にやったことで~」というような話は通らないのです。
今回のケースでは、振り出された手形のお金を支払わないで済ませることは困難です。最初の受取人が手形を振り出した専務に代表権がないことを承知していた、次に裏書を受けた人もそのことを承知していた、というようなことが証明されなければなりませんが、それは現実的に無理でしょう。
裏書をした人は、「裏書人の責任」といって、手形の振り出し人からお金が支払われなかったときには、裏書人が裏書譲渡した人にその金額を支払わなければなりません。このことから考えても、前述の証明は無理。残念ですが、今回の場合は手形の金額を支払うしかないと思います。
後の祭りかもしれませんが、今後こういうことが起きないように、家族といえども代表であるような肩書きをつける際には十分注意することをおすすめします。