介護施設での事故について
●90歳の父親が介護施設で転倒させられ寝たきりになりそうだ。補償は?
Q 90歳の父親を家で介護をすることができないので、介護老人福祉施設に入所させましたが、施設職員がトイレ介助のとき、父を転倒させてしまい、骨折してしまいました。こういった場合、治療費はどちらが持つべきなのでしょうか?
また、骨折以来ベッドに寝たきりになっています。何とかして欲しいと言ったら「気に入らなければ対処してもらっていいです」と言われました。ケガをさせられて、そのあげくに開き直られて・・・。いったいどうすればいいのでしょうか。(61歳・女性)
施設側に責任がある可能性が高いケース
A トイレ介助のときに、施設職員が転倒させてしまった、ということですが、今回のケースは施設職員の過失であることが前提になっているということですね。
しかしそれがはっきりしないケースも少なくありません。実際には介護職員の不注意で転倒させたとしても、軽い認知症がある場合などは、本人が事故の経過などを詳しく思い出せないということもあります。
とはいえ、介護施設はそもそも高度な安全性を備えていなければならない場所です。転倒したことと、そのとき職員が介助していた、という程度の事実がわかれば、細かな経緯が不明でも、施設側に責任が認められる可能性が高いと思います。
例え、自分で歩いているときに転んだ、あるいは歩行補助器などを使っているときにケガをした場合でも、廊下や出入口に段差があったり、モノが落ちていてつまずいた、というようなことが原因で転倒したとすれば、施設側に責任があることになるでしょう。こういった施設は、相手が高齢者だということを前提に、高いレベルで入所者の安全を守る義務があるのです。
いずれにしても、今回のご相談ケースでは介助のときに転倒させたということなので、施設側に責任があることがはっきりしています。治療費などの支払いについては、当然施設側が支払うことになります。
こういう場合に備えて多くの施設では保険に入っているので、保険会社が対応するでしょう。
今、お父様にとって一番大切なことは、施設を一時退去して、病院で治療とリハビリをして、歩けるようになったら戻ってきてもらうこと。そしてかかった費用は、全て施設側に支払ってもらうようにしましょう。
市区町村や国民健康保険団体の高齢者介護の相談窓口へ
今回のケースで問題になるのは、治療費だけでなくそれ以上のものです。お父様は90歳ということですから、おそらくお仕事はしていないと思います。したがって収入が減るというようなことはないでしょうが、ご高齢ですから、骨折治療のため長期間寝て過ごすことで、いろんなところに影響が出てくるでしょう。寝たきりになったり、認知症が進行してしまう、ということもありえます。介護施設はそれら全体に対して、責任があることになります。
そうした責任に関しては、損害賠償と慰謝料で解決するほかありません。
人生の最後の貴重な時間。こんなことさえなければ、もう少し長期間元気で過ごせたことでしょう。弱い立場にいる高齢者が入所する施設なのだから、そもそも責任が重い、という点から考えれば、2000万円程度の慰謝料が認められる可能性もあります。
そして施設側にミスがあったのにもかかわらず、「気に入らなければ退所してもらっていいですよ」ということを言っていること自体、慰謝料増額の要因になるでしょう。
施設の対応に納得できない場合は、高齢者の入居施設に関する相談窓口が市区町村や国民健康保険団体連合会にあるので、相談してみましょう。それでも問題が解決しない場合は弁護士に相談を。弁護士会によっては高齢者支援の窓口などが設けられています。
ケースによっては、証拠保全が必要なこともあります。介護施設には、介護の経過や入居者の九条などを記録していますが、その記録を裁判の前に改ざんされないように、写真をとっておくというような手続きです。ここまでくると、弁護士の仕事となるでしょう。
入居契約を解除してよりよい施設に移るのがベター
こうした介護に伴う高齢者の事故に関しては、まだ裁判例の蓄積が十分ではありませんが、施設側にかなり高い安全配慮の義務を認める方向が示されています。また最近では老人ホームや介護ヘルパーの高齢者への虐待が社会問題となっています。
いずれにしても「気に入らなければ退所してもらっていいですよ」というような施設では、お父さんの今後の人生をカバーすることは難しいでしょう。損害賠償や慰謝料の請求を申し立てる一方で、入居契約そのものを解除して、別の施設に移ったほうがいいかもしれません。